なぜ同じ「オーダースーツ」でも仕上がりに差が出るのか?──技術と提案力が生む“納得の一着”とは

オーダースーツは“どこで作るか”が9割?同じはずなのに差が出る理由

世の中には、たくさんのオーダースーツ店があります。
どの店も「オーダースーツ」と名乗っていて、見た目は似たようなものに見えるかもしれません。ですが、実際には採寸する人の技術や考え方によって、出来上がるスーツはまったく別物になることがあります。

つまり、「オーダースーツの正解」は一つではないのです。
あるお店でスタイリストが提案したスーツが、クライアントにとって満足のいくものであれば、それがその人にとっての“正解”になります。


きっかけは、あるお客様の声から

この話をしようと思ったのは、あるお客様とのやりとりがきっかけでした。

その方(以下、A様)は、長年うちのお店でスーツをお作りいただいていたのですが、ある日、親しい方の紹介で出張型のオーダースーツ店に頼んでみたそうです。

もしそのスーツが満足いく仕上がりだったら、私たちとしても「よかったですね」と言えるのですが、結果は残念ながらそうではなかったようで…。
届いたスーツは、試着しただけですぐクローゼットにしまい込まれたそうです。


どうして「しっくりこない」のか?

A様は「D'フレイムのスーツはしっくりくるのに、なぜ今回は違和感があるのか」と不思議に思われていました。
その“しっくりくる・こない”の違いは、大きく分けて2つのポイントがあると私は考えています。


①「合わせる」ことの技術

オーダースーツは、体に合わせて仕立てるのが前提です。
ただ、サイズを測って形にするだけでは、本当に「合う」スーツにはならないことがあります。

A様は学生時代に水泳をされていた影響で、一般の方よりも胴が長めという特徴がありました。
このような体型の場合、通常のバランスで作ると、スーツのVゾーン(襟元の開き具合)が狭く見えてしまい、どこか窮屈でアンバランスな印象になってしまいます。

そこで私たちは、フロントボタンの位置をあえて下げて、全体のバランスを整えるご提案をしています。
こうした“ひと手間”をかけるかどうかで、見た目の印象や着心地は大きく変わってくるのです。


②「どう見られたいか」の視点

もうひとつ大切なのが、スーツを着てどう見られたいかという視点です。

オーダースーツ店では、生地選びをお客様に任せるケースが多いのですが、「好きなものを選んでください」と言われて即決できる方は、実は少数派です。
多くの方は、「紺系がいいかな…」「ストライプもありかも…」というざっくりとしたイメージを持っていても、最終的な判断に迷われることが多いのです。

A様も「紺系がいい」とおっしゃっていましたが、色の濃淡や柄については決めきれないご様子でした。
そこで、私はまず「今回のスーツで何を叶えたいですか?」とお尋ねしました。

A様から返ってきた言葉は、
「昇進して所長になった。部下に舐められないような自分を演出したい」
というものでした。

この言葉を受けて、私は以下のようなご提案をしました。

  • 色味は軽くなりすぎない、落ち着いたブルー系
  • 柄は白系のピンストライプをぼかしたものを選び、控えめながら格調を演出
  • 生地はイタリア製の上質なもので、素材そのものから品格を感じさせる

ストライプのぼかしによる色覚効果で、落ち着きつつも明るく見えるという視覚的な工夫も加えました。
こうして、「所長として部下に信頼される印象を持たせたい」という目的に応えられる一着をご提案できたと感じています。


クライアントの満足こそが「正解」

もちろん、今回のご提案が「絶対の正解」だとは思っていません。
オーダースーツの世界には、スタイリストの数だけ回答があります。

大切なのは、その提案が、クライアントにとって納得できるものであるかどうかです。

「これだよ。これが欲しかったんだ」と言っていただけたとき、私もスタイリストとして一番嬉しく思います。


まとめ:価格だけじゃない、“納得”という価値

オーダースーツを選ぶとき、つい価格で比較したくなるかもしれません。
けれど本当に大切なのは、採寸の技術と、スタイリストの提案力、そして納得感のある対話です。

あなたにとって「これだ」と思える一着に出会うために、ぜひ信頼できるお店を探すことを意識してみてください。

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